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東京高等裁判所 平成5年(ネ)3801号 判決 1995年1月19日

控訴人

朴華成

李南伊

右両名訴訟代理人弁護士

斉藤一好

斉藤誠

中由規子

被控訴人

坂田惠喜男

右訴訟代理人弁護士

山下秀策

主文

本件各控訴をいずれも棄却する。

控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実及び理由

一  控訴人らは、「原判決を取り消す。被控訴人は、それぞれ、控訴人朴華成に対し四八六四万一三四四円、控訴人李南伊に対し二四三二万〇六七二円及びこれらに対する平成元年七月三一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決及び仮執行宣言を求め、被控訴人は、控訴棄却の判決を求めた。

二  当事者双方の主張及び証拠関係は、次のとおり付加、訂正するほか、原判決の「事実及び理由」欄の「第二事案の概要」と、原審記録並びに当審記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるから、これを引用する。

1  控訴人らの主張

(一)  衝突地点について

訴外亡金と被控訴人車との衝突地点は、第二車線と第三車線の白線上(中央分離帯端から3.95メートル程度車道に入った地点)で本件交差点西端から七メートル以上西に離れた地点ではない。

(二)  積極損害について

控訴人らの主張する損害中、葬儀費用等の積極損害の額は次のとおりである。

(1) 葬儀費用(韓国と日本との間の旅費を含む。)

ア 韓国における葬儀費用 三〇六万三五〇〇ウォン

本件事故当時のレート(1円=4.8242ウォン)に従って換算すると、六三万五〇二七円

イ 日本における葬儀費用 三七三万三一四二ウォン

同右 七七万三八三六円

(2) 遺体運搬費 六八万九九二二円

(3) その他の交通費 一万九五八〇円

(4) 治療費 五三万四四九〇円

合計 二六五万二八五五円

(三)  逸失利益について

訴外亡金の得べかりし利益の額は、日本の賃金センサスに基づいて算定すべきである。

交通事故による死者の逸失利益については、その将来の稼働可能な期間全体について、長期的に見てどれだけの収入を得る蓋然性があるかという観点から考慮し、推認すべきものであり、公平の原則に基づいて算出すべきである。本件において訴外亡金の母国である韓国の賃金センサスに基づいて算定することは、憲法一四条の法の下の平等の規定に反する。特に訴外亡金は、日本の大学院学生である妻控訴人朴に同伴して来日し、日本に永住すべく勉強中であり、釜山大学哲学科を卒業した後、日本に留学し、日本で就職することは十分可能であったから、日本の賃金センサスによるべきである。

(四)  損害填補額について

後記2(二)の被控訴人の主張は認める。

2  被控訴人の主張

(一)  逸失利益について

訴外亡金は、日本の大学に留学中の外国人であり、永住許可を受けておらず、日本に永住して就労し、日本人と同様な収入を得る蓋然性が高いとは考え難いから、日本の平均賃金を基礎とすべきでない。このように解しても、憲法一四条には違反しない。

(二)  損害填補額について

控訴人らの受けた損害填補額は次のとおりである。

(1) 自動車損害賠償責任保険金額一八〇〇万〇〇〇〇円

(2) 治療費 五四万三七六〇円

(3) その他(見舞金) 二〇〇万〇〇〇〇円

合計 二〇五四万三七六〇円

三  当裁判所の判断

1  本件事故の態様及び過失相殺率について

この点に関する当裁判所の判断は、次のとおり補充するほかは原判決の「事実及び理由」欄の「第三 争点に対する判断」の一、二の説示と同一であるから、これを引用する。

控訴人らは、訴外亡金と被控訴人車との衝突地点は、原判決の認定する、第二車線と第三車線の白線上(中央分離帯端から3.95メートル程度車道に入った地点)で本件交差点西端から七メートル以上西に離れた地点ではないと主張するが、当審の審理の結果を考慮しても、この点に関する原判決の認定は正当と認められ、控訴人らの右主張は認められない。そして、原判決認定の本件の事実関係、とりわけ訴外亡金が本件交差点の歩行者用信号機が赤信号であったにもかかわらず、交通の頻繁な「新目白通り」を横断しようとして、植込のある中央分離帯から左方の安全確認をすることなく被控訴人車の進行車線上への横断を開始して本件事故に遭った事実にかんがみるときは、訴外亡金の過失割合を六割とした原判決の認定は相当といわざるを得ない。

2  損害について

(一)  次の(1)ないし(4)に関する当裁判所の判断(ただし(1)は争いがない。)は、それぞれ、原判決の「事実及び理由」欄の「第三 争点に対する判断」の三の1、2、5、7の説示と同一であるから、これを引用する。

(1) 治療費 五三万四四九〇円

(2) 遺体運送費 六八万九九二二円

(3) その他の交通費 一万九五八〇円

(4) 慰謝料 一五〇〇万〇〇〇〇円

(二)  葬儀費用(韓国と日本との間の旅費を含む。)

成立に争いのない甲第一三号証の二の二、三によれば、控訴人らは、韓国における葬儀費用として三〇六万三五〇〇ウォン、日本における葬儀費用として三七三万三一四二ウォンの損害を被ったことが認められる。当審の口頭弁論終結期日である平成六年一一月一〇日現在のレートは、1ウォンが0.1233円である(公知の事実である。)から、これに従って換算すると、次のとおりとなる(円未満切捨て)。なお、控訴人らは、本件事故当時のレートに従って換算すべき旨主張するが、そのように解する合理的根拠はない。

(1) 韓国における葬儀費用 三七万七七二九円

(2) 日本における葬儀費用 四六万〇二九六円

(三)  死亡による逸失利益 一五五九万二八一六円

この点に関する当裁判所の判断は、次の(1)、(2)のとおり訂正し、(3)を付加するほかは、原判決七枚目裏二行目から同九枚目表一行目までと同一であるから、これを引用する

(1) 原判決八枚目表五、六行目の「一九九三年七月八日」から同七行目の「一七七万二五五〇円(円未満切捨て)となる。」までを、「前示の平成六年一一月一〇日現在のレート(1ウォン=0.1233円)に従って換算すると、一六二万三九九八円(円未満切捨て)となる。」と改める。

(2) 同裏二行目の数式を、次のとおり改める。

「1,623,998×0.6×16.0025=15,592,816」

(3)  控訴人らは、訴外亡金の得べかりし利益は、日本の賃金センサスに基づいて算定すべきであり、韓国の賃金センサスに基づいて算定したとしたら、憲法一四条の法の下の平等の規定に反する旨主張する。しかしながら、本件のような死亡事故における損害額を算定する場合の逸失利益とは、被害者が事故に遭わなければ得られたであろう利益を意味するものと解されるところ、その計算上被害者の収入額にいかなる数値を用いるかは、専ら事実認定の問題であって、被害者の国籍等にかかわりのない問題であり、被害者が将来どこでどのような職業に就く蓋然性が高いか等被害者の将来の労働形態を認定し、それに基づいて逸失利益を計算することは、当然のことであって、何ら憲法一四条の法の下の平等の規定に反するものではない。控訴人らの右主張は失当である。

また、控訴人らは、訴外亡金は、日本で就職することは十分可能であったから、日本の賃金センサスによるべきである旨主張する。しかしながら、原判決認定の事実関係、殊に訴外亡金は、同人の妻である控訴人朴の同伴家族ということで来日し、本件事故まで一年ほど経過したにすぎず、本件事故当時、日本の大学院に入学するため日本語の勉強をしている途中で大学院において専攻する専門科目も決まっていない状態であり、また、訴外亡金は、大学院卒業後は日本で就職することを希望していたが、それができない場合には、韓国に帰って就職するつもりであった事実に照らすときは、訴外亡金が日本で就職する蓋然性が高かったと認めることは困難であるといわざるを得ない。控訴人らの右主張は採用することができない。

(四)  (一)の(1)ないし(4)、(二)、(三)の合計 三二六七万四八三三円

(五)  過失相殺

前記1のとおり、(四)の六割を過失相殺により減ずるべきであるから、その残額は一三〇六万九九三三円(円未満切捨て)となる。

(六)損害填補額(争いがない) 二〇五四万三七六〇円

(七)  結論

(五)の過失相殺後の額は(六)の額を上回らないから、被控訴人が支払うべき損害額は存しないこととなる。

四  よって、控訴人らの請求を棄却した原判決は相当で、本件各控訴はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、控訴費用の負担につき民訴法九五条、八九条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官宍戸達德 裁判官西尾進 裁判官福島節男)

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